朝起きるとあたりには草原が広がり、朝日が当たってキラキラ輝いていた。
前の晩にはよく見えなかったが、草原を囲む山は岩が切り立っていて荒々しい。

nordic-countries-trail-island_2_p1

今日はここから海沿いに次の野営地まで進む。
荷物をまとめていざ歩き出す。
一晩休んで体はだいぶ回復していた。

ホルンストランディルには海の近くにサマーハウスがいくつか建っている。
最初に出会った夫婦と同じように家族代々受け継いで維持しているらしく、夏には船に乗って泊まりに来るのだ。
荒野に点々と建つカラフルな家はとても可愛い。

nordic-countries-trail-island_2_p2

海沿いの道は高低差がない分、山を越えるより楽だと思っていたが、未知の冒険が待っていた。
草原と岡をいくつか超えると、途中から海に沿って崖の側面にある細い道に続いて行った。
下を覗くと断崖絶壁…私とネモちゃんは慎重に足を運んだ。

nordic-countries-trail-island_2_p3

小雨の中2つ目のキャンプ場に到着、そこでこのトレイルでずっと見たかったアイスランディックフォックスを見ることができた。
小柄で真っ黒、耳が小さくて犬よりは猫に近い印象だ。
この土地に捕食者がいないため人間の事もそれほど怖がらず、すぐ横を通り過ぎて行った。

この日は雨の中テントを張り、トレイルフードをお湯で戻して食べる。
いくら食べても物足りない気がした。
それだけエネルギーを消費しているのであろう。


次の朝も生憎の小雨。
私たちはテントを張ったまま、岬を周回するルートを歩きに出発した。
荷物をいくらかテントに残してきたので体が浮きそうなくらい軽く感じた。

まず最初に立ちはだかったのは大きな川。
深くはないので歩いて渡れると聞いてはいたが、幅が100mくらいありそうであった。
靴を脱いでズボンをたくし上げ、威勢よく進んで行く。

nordic-countries-trail-island_2_p4

最初の一歩で全身が強張った。
めちゃくちゃ、冷たい。
この川の水は山の上から流れてくる雪解け水であった。
最初は慎重に歩いていた私たちだが、気づけば対岸まで猛ダッシュしていた。
川から上がっても皮膚がチクチクしていて、私達は大笑いしながら足を手拭いで拭いた。

nordic-countries-trail-island_2_p5

岬に向かう海岸沿いで、何度か大きな魚の骨が落ちているのを見かけた。
後からわかったのはどうやら狐の食事の跡のようだ。
食料が豊かとは言えない環境で、きっと大事に食べたのであろう、綺麗に肉が無くなっていた。

3日目に歩いたこのルートでは鳥やアザラシを沢山見ることができた。
北極圏に生き物が沢山生息しているのは私にとっては不思議なことだった。
環境に特化して進化してきた彼らにインタビューしてみたい。
この島に来る理由、イチオシスポット、教えてください。

岬に近づくと標高も上がり、風が強くなってきた。
先端の崖まで行く予定だったが、私たちの前を歩いていたカップルが引き返してきて、あまりにも強風のため引き返すというので、私とネモちゃんもルートを考え直すことにした。
今日の目的地まで行くルートがもう一つあったので、引き返してその道を進むことにする。

フィヨルドの崖の上を歩いていると、横に並んだ岬がいくつも見えた。
まるで巨大な生き物の指の上に乗っている様だった。

目的地のすぐ近くまで行くことができたが、そのルートも最終的には強風の上にホワイトアウトしてお目当ての大岩を見ることができなかった。
それでもそこに辿り着くまでの湿地がとても幻想的で私はかなり満足していた。
霧の中に点在する小さな池と沢山のお花。ネモちゃんと天国にいるみたいだねと感動していた。

nordic-countries-trail-island_2_p6


帰りも大きな冷たい川を渡渉しなければならなかった。
さらに潮が満ちていた関係で水位が上がっていたため、ズボンを脱いでパンツ一丁で川を渡った。

nordic-countries-trail-island_2_p7


初めはゆっくりだったが、途中から耐えきれずにダッシュした。
この旅中にこの後何度も渡渉したけど、この川が一番長かったかもしれない。
私は正直渡渉が嫌いではなかった。川から出ると血行が良くなって体がポカポカしてきて、疲労が回復する気がしたし、何よりアドレナリンが出る。

nordic-countries-trail-island_2_p8


キャンプ地に戻ると、そこに駐在している保護区の管理者が明日は嵐になると教えてくれた。
午後のフェリーで街に戻る予定だった私たちは、午前中の便に乗るために予定を大きく変更し、朝3時にキャンプ場を出発することになった。私の歩くスピードだとその時刻に歩き始めないと間に合わないとねもちゃんが判断してくれた。

明日はホルンスタンディルで歩くトレイルの中で一番標高が高い山を超える。
日本では登り慣れた標高だが、今までと違って20キロの荷物を背負って登るのは不安だった。
よく寝て休まなければ。

「一緒にアイスランド歩かない?」③ へつづく