多雨多湿な屋久島は、
靴にとってはなかなかタフな環境だ。
そんな屋久島に降り立ったのは、
MERRELLの新作
「モアブ スピード 2 ゴアテックス®」を
履いたモデルの増田翔くん。
「屋久島は月に35日雨が降る」という
言葉通り雨が降り続き、計画変更の連続。
でもここは蒼き水の島。
雨でも気持ちの良い
ロケーションは数え切れないほどあるのだ。
Sho Masuda
増田 翔
モデル。昨年、アメリカを縦断するパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を約4ヶ月かけ、スルーハイクで歩ききった。その長い旅の様子は、YAMAHACKで掲載中。
Takashi Sakurai
櫻井 卓
ライター。国内外の国立公園を巡ることをライフワークとし、アメリカを中心に多くの国立公園を訪れている。特にヨセミテ近辺がお気に入りで、毎年のように通っている。
DAY 3
白谷雲水峡
右手に海、左手に山を見ながらクルマを走らせ、白谷雲水峡に向かう。
何度見てもすごい島だ。
東西約27kmしかないのに、標高1936mの宮之浦岳を筆頭に、1000m峰が45座以上ある。だから海のすぐ脇から山がそそり立っている感じだ。洋上のアルプスという別名の通り、海から見ると巨大な山が、突如として海から立ち上がっているように見える。
標高差によって亜熱帯から冷温帯の植生分布が見られるのも屋久島ならでは。奇跡のような要素が絡み合っているからこそ、世界遺産にも認定されているのだ。
苔の森として知られる白谷雲水峡は、シューズの性能を試すにはうってつけの場所でもある。
硬い花崗岩、苔むした森、ときに現れる木道、露出した木の根。簡単だが渡渉もある。そしてもちろん雨。およそ自然界で考え得る地面ロケーションが揃っているのだ。
今日も当たり前のように雨だ。でもここは雨の日が一番魅力的な場所。もとい、雨上がり直後が理想なんだった。
根に足を乗せてもまったく滑らないことに2人で感嘆しながら進んでいく。
「木の根ってかなり滑りやすい箇所ですが、このシューズだと、キュッと音を立ててグリップしちゃいますもんね」
足元のストレスが少なければ自然と目線が上がるから、ささいなことも目に留まるようになる。
増田くんはさきほどから、苔からしたたる雨に無心でカメラを向けている。
雨と靄のお陰か、緑が濃い。新緑という季節も相まって、森全体が青々としている。鬱蒼という言葉がぴったりだ。
「雨の日に歩くのもいいですね。雨とか霧とかランダムな要素が加わるから、飽きがこないです」
増田くんが言う。彼が歩いたPCTでは、4ヶ月の間にわずか3日しか降られなかったらしい。
風もない。静かな雨の森歩き。
前夜に少々飲みすぎた、地元焼酎・三岳で濁った頭が、すーっと晴れてくる。
湿度はかぎりなく100%に近い。
こんな天気の屋久島の森は、植物にとっては、水の中に近いのだ。
露出している根が多いのもそれが理由のひとつだ。土壌的にはなかなかシビアな屋久島だが、それを補って余りある高い湿度がある。だから根を地面に深く潜らせなくても大きく育つことができるのだ。
DAY 3
七本杉
樹齢1000年を超えたものを屋久杉という総称で呼ぶのだが、それらはとてもゆっくり育つ。だから年輪が細かく油分が多い。ゆっくりじっくり。それが長生きの秘訣だ。1000年生きた屋久杉は、伐採後も腐りにくく1000年かけてゆっくり分解されるのだという。
屋久島には個性豊かな数多くの屋久杉が存在するんだけど、この白谷雲水峡には、特に好きな屋久杉がいる。
七本杉と呼ばれるその杉は、樹高18mと屋久杉の中ではけっして高いほうではない。
特徴的なのが、樹上の緑の盛り上がりだ。着床といって、いろんな植物がこの巨木を住処にしている。この七本杉で暮らしているのは、ヤマグルマ、ナナカマド、サカキ、サクラツツジ、アセビ、ハイノキなど。屋久島にはこういう寄り合い所帯がたくさんある。見ていてなんだか嬉しくなる光景だ。
最後の急登をあがれば、今日の目的地である太鼓岩だ。
ここからは、本来なら登るはずだった宮之浦岳なども一望できる。
空もだんだんと明るくなってきていたから、太鼓岩で晴れ、というドラマチックな展開を期待もしたけど、そうそううまくは行かないか。
でもガスはだいぶ晴れてきた。
増田くんから、アメリカ旅の話を聞きながら下山していく。
渇いたロングトレイルと雨の多い屋久島のギャップは、彼にとってもとても興味深かったようだ。
「ここは、アメリカのどことも似てないですね」
ここにしかないという場所は、意外と少ない。
もうすぐ登山口。ただものじゃない足運びの人が前からやってくるなと思ったら、旧知のガイド、田平拓也さんだ。
そうだった。屋久島は人も最高なんだ。
田平さんは、なんども一緒に歩いた屋久島の師匠的存在。
ヤクスギランドの奥深さを教えてくれたのも彼だし、天文の森や大川の滝の魅力を知ったのも彼がいたからだ。
元ネタが割れてちょっと恥ずかしさもあるけれど、がっちりと握手を交わす。
EPILOGUE
潤いの森を心と身体でたっぷり堪能したあとは、後ろ髪をひかれつつ街まで下りる。
旅の終わりは無言になることが多い。
それぞれが、旅を反芻する時間だ。
「そういえば、山で履いてた靴のままですね」
増田くんが思い出したように言う。たしかに。山から下りたら即シューズを脱いでサンダルに履き替えるタイプなんだけど、気が付けば履きっぱなしだ。どんなロケーションでも対応してくれて、山でも街でも快適。荷物をできるだけ減らしたい、旅の靴としても優秀なのだ。
最後の最後。フェリー乗り場でこの旅初めての青空が顔をだす。
港の端に立ち、あらためて、屋久島を仰ぎ見る。
雨の青さも良いけれど、やはり青空も似合う島だ。
空を映した青い海に、高速船の白い航跡が刻まれていく。
「今になって晴れちゃいましたね。旅の終わりっていつもそうなんですけど、帰りたくないなというちょっとブルーな気分になります」
宮之浦縦走、永田岳、西部林道のガジュマル、縄文杉、トロッコ道、個性豊かな温泉たち。
まだまだ増田くんに見てほしい屋久島はたくさんある。
また一緒に来ればいい。次は晴れの屋久島か、はたまたカリフォルニアの青空の下か。
旅が終わるとき、すでに次の旅は始まっている。
そんな青臭いことも言いたくなる、良い旅だった。
MOAB SPEED 2 GORE-TEX®
モアブ スピード 2 ゴアテックス®
ベストセラーモデル「モアブ」をベースにし、ハイキングシューズの安定性とトレイルランニングシューズの軽快さを兼ね備えたモデル。全天候対応メンブレンは、雨の屋久島でも十分に対応してくれたし、ヴィブラム社のメレル専用コンパウンドソールは地形を選ばずしっかりとグリップ。街歩きでも違和感のないデザインで、荷物を減らしたい山旅にも最適な一足。